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福岡地方裁判所 昭和37年(行)17号 判決 1964年7月30日

原告 畑辺半次郎

被告 社会保険審査会

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一、当事者双方の申立

一、原告の申立

福岡県知事が原告についてした障害福祉年金支給請求を却下する裁定を不服とする審査請求を棄却した福岡県社会保険審査官の処分に対する原告の再審査請求につき、被告が昭和三六年一二月五日付でした右請求を棄却する旨の裁決を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。

二、被告の申立

原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。

第二、当事者双方の主張

一、原告の請求原因

(一)(1)  原告は明治四一年三月一〇日に出生し、昭和三四年一一月一日以前に治癒した疾病によつて左上肢及び右下肢が廃疾の状態になつたものである。

(2)  原告は昭和三五年一二月一二日福岡県知事に対し国民年金法第八一条第一項に基く障害福祉年金支給の裁定を請求したところ、同県知事は右請求を却下した。

(3)  原告はこれに対し昭和三六年三月二日福岡県社会保険審査官に審査の請求をしたところ同審査官は右請求を却下した。

(4)  原告は更に同年五月一六日被告に対し再審査を請求したところ、被告は同年一二月五日原告は国民年金法別表(以下別表と略称する)に定める一級に該当する程度の廃疾の状態にあるといえないので障害福祉年金の受給資格を欠き従つて福岡県知事が支給請求を却下する旨の裁定をしたのは妥当であるとして右再審査請求を棄却する旨の裁決をし、右裁決は昭和三七年二月六日原告に宛てて送付された。

(二)  しかし原告の障害はつぎの理由で別表に定める一級に該当するから、当然障害福祉年金の支給を受ける資格があり、原告の右年金支給請求を却下した裁定を是認した被告の前示裁決は違法であるから取消されるべきである。

(1) 原告は左肩関節強直、左肘関節強直、右股関節強直、左全手指運動不全麻痺の障害を有し、身体障害者福祉法施行規則別表第五号(旧別表第五号の二)の身体障害者障害程度等級表(以下等級表と略称する)に定める二級に該当するから別表に定める一級にあたるものというべきである。

(2) 原告は等級表二級にあたりかつ付添いを要する程度の障害を有しているので別表に定める一級にあたるものである。

(3) 原告は歩行や上、下肢の曲折、衣服の着脱等に困難を感じ日常生活の用を弁ずることができないので別表に定める一級の九号にあたるものである。

二、被告の答弁

(一)  原告の請求原因中(一)の事実はすべて認める。

(二)  同請求原因(二)中、(1)のうち原告の障害の部位については左全手指運動不全麻痺の点を除いてすべて認める。原告の障害が等級表に定める二級にあたることは知らない。

その余の事実は否認する。(2)のうち付添いを要する程度の障害であること、(3)のうち日常生活の用に弁ずることができないことはいずれも否認する。即ち原告の障害は別表に定める一級に該当しないものである。

第三、証拠関係<省略>

理由

原告が明治四一年三月一〇日に出生し、昭和三四年一一月一日以前に治癒した疾病によつて左上肢及び右下肢が廃疾の状態になつたこと、原告が昭和三五年一二月一二日福岡県知事に対し国民年金法第八一条第一項に基く障害福祉年金支給の裁定を請求したところ同県知事が右請求を却下したこと、原告がこれに対して昭和三六年三月二日福岡県社会保険審査官に審査の請求をしたところ、同審査官が右請求を棄却したこと、原告が更に同年五月一六日被告に対し再審査を請求したところ、被告が同年一二月五日原告は別表に定める一級に該当する程度の廃疾の状態にあるといえないので障害福祉年金の受給資格を欠き従つて福岡県知事が支給請求を却下する旨の裁定をしたのは妥当である、として右再審査請求を棄却する旨の裁決をしたこと、右裁決が昭和三七年二月六日原告に宛てて送付されたこと、原告が左肩関節、左肘関節、右股関節に各障害を有すること、原告が歩行や上、下肢の曲折、衣服の着脱などに困難を感じていることは当事者間に争いがない。

証人道免久士の証言により真正に成立したものと認められる甲第三号証に同証人の証言を総合すると、原告が左手指に障害を有することが認められ、他に右認定を覆えすに足りる証拠はない。原告はその障害の程度が身体障害者福祉法施行規則別表第五号(旧別表第五号の二)の身体障害者障害程度等級表に定める二級に該当するから国民年金法別表の一級にあたるものであると主張するが、両者はそれぞれその趣旨目的を異にするのであるから障害の程度も各自の基準に従い各別にこれを判定するのが相当である。してみれば原告の障害が仮りにその主張のように右等級表の二級に該当するとしてもこれが直ちに右別表の一級にあたるものとなすべきいわれはない。原告の右主張は畢竟独自の見解に過ぎず採用に値しない。

そこで原告の障害の現症について検討しこれが別表の一級に該当するかどうかを判断するに成立に争いのない乙第一ないし第三号証、当裁判所が真正に成立したものと認める甲第二号証、証人道免久士の証言により真正に成立したものと認められる甲第三号証に証人田代英太郎、同江藤義男、同道免久士、同坂本 求、同畑辺浅子の各証言を総合すると、原告の躯幹、四肢関節の運動筋力は肢幹部が前屈運動筋力半減、後屈運動筋力著減、骨盤部が右引き上げ運動筋力消失、左引き上げ運動筋力稍減、左肩甲骨部が引き上げ、内転、外転の各運動筋力いずれも消失、左肩関節部が前挙、外挙、後挙の各運動筋力いずれも消失、左肘関節部が屈曲、伸展の各運動筋力いずれも消失、左前腕部が回内、回外の各運動筋力いずれも著減、左手関節部が背屈運動筋力半減、掌屈運動筋力稍減、左全指関節部の運動筋力稍減、右股関節部が屈曲、伸展、内転、外転の各運動筋力いずれも消失、右膝関節部が屈曲運動筋力稍減であること、次にその運動範囲は左肩関節部が前挙運動四五度位、外挙運動〇度、内転運動二五度位でいずれも強直肢位、左肘関節部が伸展運動一三五度位で強直肢位、内旋運動の自動範囲は九〇度乃至一三〇度、他動範囲は八〇度乃至一三五度、右股関節は伸展運動一二〇度位、外旋、外転の各運動各一〇度位でいずれも強直肢位であること、なおレントゲン写真による所見によれば左肘関節は伸展位で、右股関節は外旋、外転稍屈曲位で各骨性癒合していること、更に日常生活動作の障害については、左手での洗顔、排便時の処置などの動作並びに両手での上、下衣の着脱及び後手で帯をしめる動作などは不能であるが、食事の場合茶碗を支えるなど左手指部の動作は勿論、寝ること、起き上がること、立ち上がること、右脚を投げ出してすわることなどの動作は可能であること、また屋内は勿論屋外での歩行、階段の昇降などの動作も多少不自由ではあるが可能であり、屋外での歩行には常時補助具として杖を使用しているがその補助の程度は軽度であることなどが認められ、右認定の諸事実に照らせば、原告はその左上肢については左肩関節及び左肘関節に用廃の状態が現存し、そのために日常生活上も左手指部の動作を除きほとんどこれを生活の用に弁ずることができずその機能に著しい障害があること、右下肢については右股関節に用廃の状態があるがその日常生活上の動作は多少不自由であつても十分に可能であり未だその機能に著しい障害のないことが明らかである。

そうだとすれば原告の左上肢の障害は国民年金法別表の二級(八号)に該当するに過ぎず、その右下肢の障害は同表の二級(一二号)にすら該当しない。しかして左上肢、右下肢の障害の程度を総合してもこれが同表の一級(九号)に該当しないことはもとより明らかである。

よつて被告の原告の再審査請求を棄却した本件裁決処分は相当であつて原告の本件請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 内田八朔 越山安久 生島三則)

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